特別支援学級担任の先生にインタビュー 「勉強ができないから支援学級に行ってるのではなく、勉強のやり方が違うんだという認識を持ってほしい」

 息子が通っている学校には、肢体不自由のクラスを含めて、特別支援学級(以下、支援学級と表記)が4クラスあります。ちなみに、うちの息子は、特別支援学校判定で、まだ言葉が出ない重度知的障害A2の手帳を持っています。
この小学校に通って半年が過ぎました。通常学級と支援学級に分離されているのでインクルーシブ教育とはいえません。しかし、私はとても満足しています。息子の学校生活から見えてきたインクルーシブ教育のありかたについて話したいと思います。
 たとえば、この学校では毎年「ふれあい集会」という行事がおこなわれています。それは、支援学級の子どもたちが、全校の子どもたちに、自分たちのことを自分たち自身で紹介する取り組みです。この取り組みがとても素晴らしいのです。今回、この「ふれあい集会」について特別支援教育コーディネーターの北崎裕嗣先生にインタビューをしました。

1.「ふれあい集会」とは

 毎年6月にふれあい集会をおこなっています。これは、支援学級の子どもたちが各学年を招待して支援学級や自分たちのことを知ってもらうことを目的としてされています。
学年ごとにわけて計6回、体育館で行われます。

▲ふれあい集会の式次

① 支援学級の紹介
授業の様子をスクリーンに映しながら説明。
・鉛筆などを持って書くことは難しいが、パソコンを使うと同じように授業を受けることができる。ローマ字打ちができるようになった。
・算数の授業では、実際に物を使って測ったりして、確実に習得できるように何度も繰り返し学習する。
・支援学級で校外学習に行く。そのルートなどを自分たち自身で調べて決める。
・家庭科の授業では、包丁やミシンなどを使って、いろいろなものを作る。
・ほかにも幅広く学習している。

② グループ分けゲーム
 絵の文字数に合わせてグループを作るゲーム。
例えば、イルカの絵が出たら、3文字なので3人組をつくる。そのとき、必ず支援学級の子どもを入れないといけないルールになっている。グループができたらお互いに自己紹介をする。

③ かがやきビンゴ
支援学級の子どもたちが横1列に並んでいる。通常学級のこどもたちが、支援学級の子どもに質問をして、答えてもらったらシールを1個もらえる。ちなみに質問内容はいくつかに限定されていて、支援学級のこどもたちは事前に答えを準備している。同じ子には1回しか質問できないので、いろんな子どものところに並んで質問をする。それを繰り返してビンゴをつくる。決められた時間内にビンゴができなかったら、休み時間を利用して聞いていいことになっている。全てそろえたら賞状をもらえる。
質問をとおして支援学級の子と会話し、その子のことを知ることができる。

④ プレゼントの贈呈
支援学級の子ども達が、各学級に木工で作った傘立てプレートをプレゼントする。どんなプレゼントがいいか考えて作ったことを伝えて渡す。

▲支援学級の子どもたちが手作りした傘立てプレート

⑤ 通常学級へ向け 支援学級からメッセージ
「支援学級のことを知って、これからも仲良くしましょう」
その後、通常学級の子ども達から、支援学級の子ども達へ感想を伝える。

⑥ 見送り
 支援学級の子どもたちが、すべての子どもたちとハイタッチをして見送る。

 以上の内容を支援学級の子どもたちでします。司会進行・説明する人・パソコンを操作する人・グループ分けゲームに利用する絵を書く人・会場の飾りつけをする人。それぞれに役割があり、みなさん堂々と発表しているのに驚きました。また、絵を書いた人の紹介があったりして、それぞれの得意分野を発揮できる機会にもなっていると感じました。
 うちの息子の役割は、プレゼントを渡す係でした。それぞれの子どもにあった見せ場を作ってありました。
 また、ビンゴゲームでは、この集会が終わっても昼休みなどに支援学級に自然に遊びにくるようになっています。
 すべてにおいて、うまく仕掛けられているなと思いました。

2.ふれあい集会を見ての感想  ~インふくママたち見学~

〇内容の仕掛けがすごい!!私達当事者の親が企画すると、健常のお子さんに遠慮がちな内容になってしまいます。でも授業の一環として交流を大事にしているという姿勢が感じられ、お互いを認め合う、交流ができる機会を作るなどとても素晴らしい内容でした。
〇高学年になると、健常の女の子が車いすの子に自然と目線を合わせて話をしていたので感心しました。自然にやっている光景が、日頃から相手を思って行動できていると感じました。
〇支援学級のお子さんが、堂々と紹介している姿を見ると、支援学級で自信をつけてもらっているのではと先生の行き届いた支援が伺えました。
〇支援学級のお子さんたちが、自分たちのことを自分たちで堂々と発信しているところが、素晴らしかったです。より健常のお子さんの心に響いたと思います。
〇素晴らしい取り組みだと思うので、保護者の方々にも知って見ていただきたいなと思いました。
〇活きた人権学習だと思います。

そこで、ふれあい集会を企画された北崎先生にインタビューをしました。

3.北崎裕嗣先生インタビュー
(特別支援学級担任・特別支援教育コーディネーター)

Q1ふれあい集会はいつからはじめましたか?
 この学校では3年前に私が赴任したときに始めました。前任の学校で、特別支援教育のスペシャリストの先生からノウハウを教えて頂きました。そのひとつがふれあい集会です。毎年毎年行われるので、通常学級の子どもたちは卒業するまでに計6回ふれあい集会に参加します。続けることの良さ、関わりをもつことの良さを実感していたので、この学校でも行いたいと思い、提案しました。

Q2集会の内容がよく考えられていますが、どうやって決めましたか?
 内容は、前任の学校から大きくは変わっていません。子ども達の実態によって、手話ソングを歌って踊った年もあります。年によって違いますし、人数によっても違います。この学校で続けようと思ったのは、特別支援学級が多かったというのもあります。例えば2,3人の支援学級の人数だとあれだけのメニューをこなすのは難しいです。ある程度の人数がいないとできない集会です。やられている学校・やられていない学校あると思いますが、学校の状態や実態によると思います。

Q3昼休みにどのくらいの子どもたちが遊びにきましたか?
 かがやきビンゴは効果的面で、特に低学年の子どもたちはビンゴをしようと思ってよく遊びにきてくれました。高学年になると先生に促されて、意識の高い子は遊びにきています。

Q4ふれあい集会は、保護者(通常学級・支援級ともに)参観案内は配布されるのですか?
 見に来ていただくことはかまいませんが、こちらから見学に来てくださいという案内はしていません。むしろこれを機に普段の学校生活の中でどんなふうに関わっているのか、運動会やミュージック発表会などどう関わっているのか見てもらうほうが自然かなと思います。ふれあい集会は、役割があって決められてやっているので、本当の関わりというのはあの場を離れた後です。その後の関わりが大切になってきます。

Q5ふれあい集会をはじめてから、支援学級の子ども達に変化はありましたか?
 繰り返しおこなっていくと、6月の時期はふれあい集会の時期だとわかってきます。それに向けて今年は何をするか準備をします。話し合いをして、計画の立て方、人前で話すこと・ゆっくり話す・相手の目を見て話すなど、本番に向けて繰り返し練習していきます。友達にどうやったらうまく伝わるのか。うまく説明できるのか。プレゼンテーションで、どの写真だったら、自分たちの頑張りが伝わるか。
 自分を発信する力と人のことを考える力がついてきます。このときだけの学習に限りませんが、この集会でコミュニケーション能力が身につくのかなと感じています。また、支援級の子ども達の自信につながるよい機会になると思います。

Q6ふれあい集会とは別に、交流する際に工夫されていることはありますか?
 4月に必ず交流学級の担任の先生向けにサポートシートを作っています。「この子はこんなことが苦手です。こういうことが目標です」ということを書いてお渡ししています。
交流の授業に入れるときは私が一緒に入って、例えば、聞くのが苦手な子で、付箋に書いたメモを渡して伝えるとわかる。このことを隣の子に、「(ふせんを)こうやって渡してね」など、上手な関わり方を伝えるようにしています。

Q7子ども達がふれあうこと。心通わせることにおいて大切にしていること、工夫していること、テクニック・ポイントなどありますか?
 自分からどんどんいく子も、なかなか話に行けない子もいます。
基本的に、高学年になると間に立ちません。本人の目の前でこうした方がいいよというようなことはしません。ある程度支援学級で作戦を練って、どういうふうに話したらいいかなど話し合っています。本人が悩んで言ってくることもあれば、見ていて思うようにできてないなと思う場合はこっちの方がいいよと伝えることもあります。
 障がいの程度に関係なく学齢によって関わり方を変えています。例えば、1年生の時の声掛けを12歳になったときも同じようには声をかけません。年齢相応にあった声掛けをしてこう。いくら障がいが重くても12歳は12歳の声掛けをしないといけないと思っています。これは、支援学級、通常学級関係なくです。

Q8先生が思い描く交流とはどういうものですか?
 交流学級にいることが当たり前で、お客さん扱いはしてほしくありません。同じクラスの一員として同じ授業を受けるのですから。通常学級の子どもたちには、支援学級の子が交流にやってくるのが自然と受け入れられ、この時間はその子が来るのが当たり前という関係になってほしいです。支援学級の子には、担任がいつもついていけるわけでもないので、その時間は自分の力で頑張って授業を受けることができ、なおかつ、ただ座っているだけではなく、きちんと力を身に付けることができるというのが理想の交流かなと思います。

 どうしても通常学級よりも支援学級はできないというイメージがあります。ふれあい集会の目的のひとつは、それを失くすことです。支援学級の子どもたちは交流学級に行きますが、交流学級の子どもたちは支援学級で授業を受けないので何をしているか知りません。支援学級の子どもたちが1年生から包丁を握ったり、自分たちの力で計画を立ててどこかへ行くなどしていることを、ふれあい集会の場で伝えています。この子たちはこんなすごいことをしているんだと知ってほしいです。支援学級の子ども達が交流に行ったときに、いっぱい発表して結果をだすことで、支援学級ってすごいんだと思ってほしいです。
 支援学級の子は、勉強ができないから支援学級に行っているのではなくて、通常の学級よりも人数が少ないところが落ち着いて勉強ができる、いろんな道具があった方が集中して勉強ができるなど、やり方が違うクラスなんだと子どもたちに認識を持ってほしいと思っています。対等の関係で常にやってほしい。自分たちは、普段すごいことをしているんだということを子どもたち本人から伝えること。
 人権学習の一番は、共に過ごすことだと思っています。家族に障がいを持っている子がいれば、生活の中で身につきますが、普段そばにいない子たちというのは、自然には身につかないので、偏見などに繋がっていきます。なので、小学校の段階からこうやって育ってくれれば、大人になったときに対応ができるでしょうし、もし親になったとき自分の子どもに障がいがあったとしても、迷いなく子どものことを考え支援学校・支援学級の進路を選択できることが大事かなと思っています。

Q9入学事前説明会や入学式で、特別支援教育について時間を割いて詳しく伝えておられましたが。
 支援学級がある学校は、入学式のときに説明をすることになっています。わが校では、スライドをもちいて支援学級のことやコーディネーターやその役割などを説明しました。ここで名前を出して、「気になることがあったら相談してくださいね」と言っておけば、担任の先生だけに負担がいきません。ソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーターといった相談できる窓口があるんだよと周知することが目的でやっています。おかげさまで、通常学級の方からも教育相談があります。毎月2、3回ペースで相談があります。

4.インタビューをしての感想

 この小学校の「ふれあい集会」はとてもすばらしい取組みでした。私たちは、これまでもインクルーシブ教育に関するすてきな取組みについて、映画を見たり本を読んだり、先生に取材に行ったりしてきました。例えば、映画「みんなの学校」、本では灰谷健次郎さんの『兎の眼』や黒柳徹子さんの自伝的小説『窓際のトットちゃん』に出てくる先生方と子どもたち。福岡市内にも過去にインタビュー記事を載せている神村美砂子先生をはじめとしたすばらしい先生方がおられます。
 私たちが「わが子をこんな学校で、こんな先生のもとで過ごさせたいな」と思う、そんな教育現場には共通点があることに気づきます。それは、障がいのある子とクラスの周りの子どもたちとの関係です。教師が孤軍奮闘して障がいのある子のお世話をするのでなく、教師もクラスの子どもも一体となって障がいのある子をお世話する。いや、障がい児を一方的にお世話してあげるというという構図からさらに進化して、どんな子どもも同じクラスの仲間だ、一緒に過ごしてお互い困ったことがあれば自然に助けてあげられる、というすてきな関係が出来上がっています。
 しかし、すてきな子どもたち同士の関係は放っておけば勝手に出来上がるわけではありません。そんな偶然はほとんどないでしょう。そんな学校やクラスには決まってすごい先生がおられるものです。子どもたちのよい関係をつくるために、先生が気づきのきっかけを与え、ときには手本を見せ、ふだんは陰から見守る。先生が表に出すぎたら、こども同士の関係はお仕着せの表面的なものになってしまいがち。場合によっては、子どもたち同士の交流を妨げる障害にさえなってしまいます。北崎先生のお話にも出てきましたけれども、自分は黒子に徹して、子どもたちを上手に導いて、他者理解や支えあいの心を育て、まとまりのあるクラスをつくっておられます。
 「ふれあい集会」では子どもたち同士のよい関係を構築するための様々な仕掛けが、あちこちにさりげなく散りばめられていました。同時に、支援学級の子どもたちが取組みを通じて成長し、自分に自信・誇りをもつためのよい機会にもなっていました。他の学校にも同様の取組みが広がっていってほしいなと思います。

素敵な学校は他にもあると思います。うちの学校の取り組みもいいですよという情報がありましたら、ぜひ教えてください。

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