福岡市の保育所等訪問支援、41億円中10万円だけ

インクルーシブ社会の実現に向けて、小学校入学前の障がいのある子どもたちを対象にした、保育所等訪問支援というサービスを平成24年度に国が創設しました。私も利用していて大変効果的なよいサービスだと感じています。しかし、福岡市では利用したくても利用できない状況にあります。

保育所等訪問支援とは?

小学校入学前の障がい児は、いわゆる療育施設に通園して専門的な支援を受けてきました(現在の制度上の呼び名は児童発達支援)。しかし、共生社会の実現という方向性が打ち出されている現在、地域の保育園や幼稚園に通って、同年代の子どもたちと一緒に生活しながら、その場所で専門的支援を受けられるという新しいサービスが国の制度として保育所等訪問支援が始まっています。
具体的には、専門知識を持った訪問支援員が、保護者からの要請を受けて、月に2回程度、保育園や幼稚園などを訪問し、その子本人への直接的指導・園の先生へ向けたアドバイスなどの間接的指導を行います。実際に利用したところ、とても満足度の高いサービスです。指導の内容を支援員の先生から報告していただけるし、幼稚園の先生からも普段どう接してよいかわからず困っていた点にアドバイスをもらえてよかったと好評です。わが家の事例について、こちらのページで紹介しています。(http://himawari.chips.jp/himawari/inclusive/houmonshien01/

福岡市の現状

制度としてはあるものの、利用したくても利用できません。

1)制度自体が知られていません。

実は、平成24年4月に障害のある小・中学生を対象にした放課後デイサービスと同時に始まりました。放課後デイサービスのほうは非常に多くの事業者が参入し、なかにはサービスの質に問題のある事業者もあることや不正受給が問題となっています。

2)多くの施設がこのサービスを提供しています。

現在13施設がサービスを提供しています。このうち12施設はいわゆる通園型療育施設が兼ねています。そのなかの8施設は福岡市社会福祉事業団が運営する、市立の公的な施設です。(1施設は平成29年10月に新規参入。)

3)しかし、利用希望者が次々と断られています。

平成28年度にわが子が初めて利用しました。当時、利用に必要な受給者証の発行手続きを市が定めておらず、事実上サービスが提供されていませんでした。市役所に何度も足を運んでお願いし、ようやく利用できるよう体制を整備してもらえました。
周りの保護者さんたちにもこの制度をすすめました。ぜひ利用したいと、保護者さんたちが市立の施設に連絡しました。ところが、支援員が足りないので対応できませんと、次々に断られました。まだ、数家族しか利用していないはずなのに・・・。

提供施設はたくさんあるのに、どうして利用できないの?調べていくうちに、制度の不備をついたトリックがあることに気づきました。さらに、私たちが困っている実態が市民のみなさんには知られないように、巧妙に隠蔽されていることに。

1)福岡市が公表している数字

(出典:福岡市「第5期障がい者福祉計画(素案)」)

市内に保育所等訪問支援事業所を12か所設置している。

おそらく周辺自治体とは比較にならない、とても充実した誇れる数です。市内の児童発達支援センター(=通園型施設)も12か所。同数です。

保育所等訪問支援を利用した人は平成24~28年度まで毎年0名

わが家は28年度2回利用したのにどうして0? それに平成27年度まではそもそも市役所が利用できる体制を作っていなかったのに・・・。

この公表データを見た人は、「たくさん整備してあるのに利用者がいないなんて、ニーズがないのだろう。削減したほうがいいよ。」と思われるのはないでしょうか。そのことがとても心配です。

2)市民に隠された実態

市役所の担当課に行って困っている実情をお話し、実態がわかる数字を教えていただきました。

1.サービス提供量

1年間に200人日。とくに市立施設では8施設合計でたったの30人日。(問1)

国の基準では、子ども1人につき毎月2回=24回/年が標準です。つまり、たったの8人分しか準備されていないのです。
さらに、市役所の意向が強く反映する市立の施設で極端に少なくひとり年に3回までと制限が設けられています。
120人日提供されている一番下の事業所は、この回答の前月に参入したばかりの民間事業所さん。それまでは年間80人日(約3人分)しか確保されていませんでした。

2.利用者数

年間延べ11人(問3)

国の基準では一人年24日を標準としていますが、福岡市立施設では年3回までに制限されています。市が公表している利用者数は0人です。0人になっている理由については、3月の数字を12倍して計算したという不可解な説明がありました。
国はひとり年24回を標準としているのに、福岡市の市立施設では年3回までの制限を設けていること、利用を希望したのに断られた人が私の周りだけでも数人いることから、この数字は市民のニーズを正確に反映しておらず、潜在的ニーズははるかに多いと推測します。

3.予算

関連予算41億円のうち、保育所等訪問支援への配分はたったの10万円だけ(問2)

障がい児施設給付費は障がい児の療育に関するお金で、放課後等デイサービス、通所型施設、入所型施設、保育所等訪問支援、相談事業などが含まれます。おそらく放課後等デイサービス、が大きな比重を占めているでしょう。

福岡市では、お金の配分がとても偏っており、不平等が起こっています。まず、小学生以下の幼児への配分が少ないこと。幼児対象の事業のなかでは、通園型療育施設に極端に偏っています(数値の出典は福岡市「第5期障がい者福祉計画」)。

「共生社会実現への一丁目一番地」と国がうたっている保育所等訪問支援には41億円のうちたったの10万円です。数字が大きすぎて実感がわかないと思いますが、4.1万円に対して1円の割合です。

制度の不備をついたトリック

調べていくうちに、どうしてこんな困った事態になっているのか、その仕組みに気づきました。

保育所等訪問支援に関しては、職員の定数が法律で明記されていない。

通園型の障がい児療育施設(=児童発達支援センター)や放課後等デイサービスについては、受け入れる子ども何人に対して職員を何名置かなければならない、という基準が数字で明記してあります。

しかし、保育所等訪問支援については、「訪問支援員 事業規模に応じて訪問支援を行うために必要な数」とだけ書かれています。(厚労省令 H24「人員・設備・運営基準」第73条)

必要な数を計算してみる

国が標準とする月2回の支援を提供するために必要な支援員の数は、こども一人につき24日です。訪問支援員を1人配置して、その人が1日に1人の子どもを支援に出るとして計算してみましょう。1年365日は約52週。盆正月はずして切りよく50週。週に5日仕事をすれば、250人日に対応できます。支援員1人で約11人に対応できます。(実際には徐々に支援の回数を減らしていけるケースも多いでしょうからもっと対応できるでしょう。)

利用者である私の感覚で考えると、福岡市内で現在800人以上の子どもが療育施設に通っています。保護者が共働きで通園が難しいため、療育は受けずに保育園に通っているお子さんもかなりいるでしょう。保育所等訪問支援を利用すれば保育園・幼稚園で十分に対応できるだろう軽度の発達障害のお子さんはもっともっとたくさんいるはずです。各ご家庭のニーズは通所を希望される方も保育所等訪問支援を希望される方もいろいろです。どれも必要です。ひとまず100人に対応できるように整備しよう、となると、少なくとも5人程度の職員が必要です。

実際の運用

平成28年度、福岡市は市立の通園施設を中心にサービスを提供することにしました。訪問支援員を市全体で1名だけでもつけてくれればスムーズにスタートしたでしょうが、それをしませんでした。通園療育のクラスの先生が、何とか時間を捻出して対応することとし、「今年度は年3回まで」という利用制限がつきました。私の場合、あいあいセンターで前年まで療育クラスの担任だった先生が来てくれました。

問題点・改善すべき点は明らかです。仕事は増えたけど、現場の職員はまったく増えていないのです。療育センターの先生方は熱意をもって本当によくやっていただいています。でも、いまの体制のままでは利用希望者が増えれば現場の職員が疲弊していく一方です。年3回の一時的制限を改善していくことも無理です。

市役所に聞いてみた

担当課の職員さんに話を聞きに行きました。

Q:(市域のサービス利用者のニーズに対応できる)「事業規模」に応じて必要な支援員の数を置くことが法律で定めてある。実際には十分な数が配置されておらず、まったく利用者がいない施設でも利用を断られている。改善してほしい。
A:(事業所が提供する)「事業規模」に応じて必要な支援員の数を置くことを法律は定めている。事業所から申請があがってくるのだが、提供人数が0人であればもちろんダメと言うが、極論すれば、1年間の支援人数が1人・日であったとしても、それが「事業規模」であると言われれば、違法ではないので、市役所として認可する。

つまり、法文の「事業規模」の解釈が食い違っています。市役所の言い分に疑問を感じますが、法律的解釈が正しいのかどうかは私にはわかりません。市立の施設は直営の公共機関ですから、その事業規模は市役所が事業団と協議して決めています。いまは1年間に8施設で合計30人日です。1施設あたり年間3人日(あいあいセンターは9人日)。この事業規模は適切なのでしょうか?合法でしょうか?市民のニーズをしっかりと考えて出された数字でしょうか?

各事業所の事業規模の解釈については仮にそれを受け入れたとしても、福岡市には市民のニーズに対応できるサービスを提供できるよう事業所等を設置し整備する努力義務があります。平成29年度のサービス提供可能人数は200人日(国標準で約8人に対応可能)、平成30~32年度の障がい児福祉計画では年間480人日(20人)です。繰り返しますが、いま通園施設に通っている障がい児数が800人、通っていない子も含めれば1000人以上の障がいのある幼児がいます。その状況でニーズがたったの20人と見込んでいるのです。予測は妥当でしょうか。
利用者のニーズに全然対応できない数だと認めたうえで、しかし、「違法ではない」、福岡市はほかの事業に重点を置いているので、保育所等訪問支援にはお金を回さない方針との回答でした。
問題点は、利用者のことを第一に考えて政策を立てていないという姿勢、市民の声に寄り添わない施策の決定過程にあると思います。「違法でないから許される」ではなく、「市民の困りごとを解決する」ことをめざしてほしいと願います。

専従の訪問支援員1名を市立施設で雇用してください

私は、とりあえず、保育所等訪問支援の支援員を1名だけでよいから市立の療育施設に専従で置いてほしいと思っています。その体制で、1年はおそらく対応できるでしょうし、ニーズを見ながら、増員を考えたり民間事業者の新規参入を待つのが最も実現可能性が高い方策だと考えています。そこで単刀直入に聞いてみました。

Q:市立施設に保育所等訪問支援の支援員を1名だけ専従で置いていただければ、私たちが困っている現状は、おそらく解決すると思う。それを実現してもらえないか。

A:きわめて困難である。市財政が厳しいおり、1名であっても新たに増員を行うのはほぼ無理。熟練した専門知識を持つ人を当てなければならないので高給になるし、一度雇えば一生雇用せねばならない。

職員1名の年収はいくらかかるのかよくわかりませんが、年収600万円で雇用するとします。出張型支援なので施設の整備にはさほどお金はかかりません。1人日支援すると、約1万円の報酬が出ます。年間300人日対応すれば300万円収入があります。市の負担はそれを引いた300万円+αです。市民のニーズを満たすための投資としても高額すぎるでしょうか?

窓口の職員さんはとても丁寧に応対してくださり、制度上はこうなっているが、私たちの置かれている状況もよく分かると理解を示してくださいました。しかし、市役所という場所では、市民の論理とはまったく違った論理が働くことが時々あります。

障がい児施設給付費が41億円のうち、保育所等訪問支援に使われているのはたったの10万円。一方、放課後等デイサービスでは数千万円の不正受給が起きている。保育所等訪問支援費10万円を1000万円にしてくれたところで、障がい児施設給付費全体41億円から見ればごくわずかな金額です。「公務員としては雇用したくない。できれば民間事業所に任せたい。」財政厳しい折、その気持ちはわからないではないですが、そんな理由で私たちの困った状況を見ないふりをしないでほしい。

担当職員さんはどうしてこんな冷たい回答をされるのか?私も公務員なので少しわかります。市役所では現場(下)から人員や予算増の要求をあげたとしても、はるか上のほうまで調整をしていく過程で簡単に却下されます。現場から上に人員増の要求するというやり方では人やお金がつかないのです。組織が大きすぎるために現場の声がトップまで届かないというのが、大都市行政の悲しい現実なのです。

逆に、市民の声やマスコミ報道によって問題が大きく取り上げられれば、比較的容易に人とお金がつきます。市役所を動かすには外からの声が必要です。
 いま、福岡市役所が「第5期障がい者福祉計画」に関する意見募集(パブリックコメント)を募集しています。12月8日(金)までです。保育所等訪問支援の今後の進め方についてもこの計画が土台となります。私たちは当事業の拡充を必要としています。公表されているデータでは需要が全くないように解釈されてしまいますが、現実には利用したくても利用できないのです。
 市民の声を市政に反映する数少ない機会です。たくさんの意見が届けば、委員の方々が当事業を充実させるよう修正意見を出してくださるかもしれません。どうぞお力を貸してください。
市役所の意見募集は終了しました。記事のシェアや共感のお声をいただき、感謝申し上げます。今後も障がいのある子どもたちが社会のなかでふつうに暮らせる世の中の実現に向けて活動していきます。ありがとうございました。

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