小学校に就学前の障がいのあるお子さんたちが、保育園や幼稚園に通いながら、そこに療育の専門家に来てもらって支援をしてもらえるサービスがあります。「保育所等訪問支援」と言います。福岡市ではこの制度が利用できない状況でしたが、私たちは市役所等に働きかけ、平成28年度から利用できるようになりました。
認定NPO法人「障がい者より良い暮らしネット」さんの会報に記事を書かせていただきましたので、ここに転載して紹介します。障がい者より良い暮らしネットさんのホームページからダウンロードできます。ほかにもインクルーシブ教育関連の記事がありますので、ご覧ください。
より良い暮らしネットさんのHPはこちら
保育園・幼稚園で療育を ~保育所等訪問支援~
インクルーシブふくおか 上角 智希
(先生)「はさみはどれ?」 (息子が写真を指差し)「これ~」。 パチパチパチ(笑顔で本人と先生が拍手)。療育の場でよく 見る、絵カードを使ってのコミュニケーションの一場面で すが、注目してほしいのは、これが幼稚園で行われている というところ。
わが家のダウン症の息子(4歳)は福岡市内の私立幼稚 園に通園しています。まわりの子どもたちより体がひとま わり小さく、ことばもまだ話せない、できないことがたくさんある。それでも、気になる弟分 というところでしょうか、いつもわが子のまわりには友だちが寄ってきて、いっしょに遊んで います。だから、幼稚園にいる時間がいちばん楽しいみたい。毎日ニコニコして帰ってきます。
2歳まで療育施設に通園しましたが、健常の子ども たちと一緒に、いろいろな刺激を受けあいながら成長 してほしいと願い、3歳から幼稚園に通わせています。 幼稚園選びは 10 園以上見学に行き、嫌な体験もしま したが、おかげでとても理解があり支援もしっかりし た幼稚園にめぐり合うことができました。
わが家が利用している「保育所等訪問支援」サービ スを紹介します。福岡市ではほとんど知られておらず、 息子が初めての利用者になりました。とてもおすすめです。
■保育所等訪問支援サービス
「保育所等訪問支援」とは、療育の先生が、保育園・幼稚園を定期的に訪問し、障がいのある 子どもを直接指導し、また園の先生に療育的なアドバイスを行うサービスです。国は月2回程 度を基本としていますが、福岡市では体制が整わず、今は年3回まで利用できます。利用者の 1 割負担で 1 回 1000 円ほどかかります。
わが家の場合、例えば、下駄箱やロッカー、タオル掛けの位 置を端っこの隅にし、さらに動物の絵のシールを息子のとこ ろにだけ貼ってあげることで、本人が場所を覚えやすくする。 給食のおかずを丸のみしないように小さく切ってあげる。幼 稚園の先生からも積極的に質問がありました。幼稚園の先生 が手作りの写真カードを何種類も作ってくれて(トイレ編・ 給食の準備編・道具類リストなど)、本人がそれを見て理解し、 最近では自分から写真を指差して意思表示をしたり、道具の 名前を発音したり、とさらなる成長が見てとれます。ただし、 衣服の着脱や食事などの訓練は、療育施設ほどゆっくりと時 間をとってもらえないので、家庭のなかで代わりにやったほ うがよいと思います。
福岡市ではずっと前から市役所勤務の障害児担当保育士さ んや療育施設の先生が保育園等を巡回指導する似た名前の制 度がありますが、こちらは年1回だけで回数が全然ちがうこ と、園の依頼で実施し保護者にはその内容を伝える形になっ ていないこと、などから効果がまったく違います。年1回だ けで十分な支援は無理だと思うのですが、行政や療育施設は なかなか違いを理解してくれません。こちらを利用してはと すすめられますのでご注意ください。
療育施設に通園して手厚い療育を受けるのがよいのか、保育所等訪問支援や並行通園を利用 しながら保育園や幼稚園で社会性を身につけるのがよいのか。自身の力をのばす療育と社会 性・コミュニケーション能力はどちらも大事で、要はバランス。お子さんの状態やご家庭の考 え方でいろいろな答えがあってよいと思います。最近新たな療育サービスが増えて、選択肢が 広がったことはとても喜ばしいことです。ただ、「保育所等訪問支援」も「並行通園」もサー ビスを提供する事業所の体制・スタッフがとても不足しています。この制度を知って利用する 方が増えれば、きっと職員を増員して体制も整備されていくでしょう。とても有効なサービス ですので、ぜひ知っていただきたいと思います。