福岡市の人権学習とふくせき制度 笠原嘉治先生1

福岡市人権啓発センター(ココロンセンター)の笠原嘉治先生インタビュー

 

笠原嘉治先生プロフィール

福岡市教委人権同和教育部主任指導主事、警固小学校長・発達教育センター所長を経て、ご退職後、同市人権啓発推進指導員。

小・中学校での人権学習はどうされているのか?2016年に障害者差別解消法が施行されたことで、学校の在り方は変わってきているのか、尋ねてみました。(取材日:2017年2月21日)

小・中学校での人権学習の現状はどうなっていますか?

心を揺さぶる学習としての道徳の時間があり、また、総合的な学習の時間をはじめ、いろいろな教科でも、人権の視点を大切にしています。例えば、小学4年生では、国語に点字がでてきます。これと連動して、総合的学習で障がい者に関する調べ学習や体験学習が実施されています。6年生になると社会科の勉強で福祉施設のことを通して政治について勉強するなど、全ての教科の中に人権感覚をはぐくむ内容がちりばめられています。
小学校では6年生の2学期ぐらいに社会科で人権侵害の歴史や基本的人権について学びます。中学校になると、集中人権学習で人権に関して学びます。主に、1年生では、いじめなど、身近な人権問題、2年生では、同和問題はじめとする人権課題について、3年生では、就職に関する人権(面接時の人権侵害)などを学ぶ事が多いようです。
また、学校全体としては、12月の人権尊重週間に合わせて、11月くらいから、12月にかけて、保護者や地域の方にも参加していただき人権学習参観を実施しています。
学校によって人権を学ぶ時間の取り方はさまざまです。丁寧に取り組むところもあれば、さっと終わるところもあります。インクルーシブ教育に関して言えば、障がい児との交流そのものが人権学習にもなります。たまには障がいのある子とケンカしたり、差別的な発言をすることもあるけれども、それがいいことかどうかみんなで考えていく。きれいごとではなく体験を通して学ぶ。まさにインクルーシブな世界を学びながら創っていきます。

ふくせき制度の現状について教えてください。

※注 ふくせき制度とは、特別支援学校に通う子どもたちが,自分たちが住んでいる校区の小中学校に年に数回通って同年代の子どもたちと一緒に活動する、福岡市が独自に導入している制度です。

ふくせき制度は、障がいのある子どもたちが特別支援学校籍と地域の小中学校の籍の両方を持っていて、地域のいろんな行事に参加できます。まずは入学式に出席して、「うちの校区にいるAさんは、皆さんと同じ地域の子どもなんだよ。今は特別支援学校にいって自分の課題にあった学習をしているんだ。でも、同じ校区の仲間だから,仲良くしようね。」とみんなに知ってもらいます。そして、年間を通して、授業や行事等で、小中学校に訪問し「交流および共同学習(学習指導要領に明記)」を進めていきます。交流の濃淡はあるでしょうが、特別支援学校の卒業式にも出て小中学校の卒業式にも仲間として出るのが理想です。しかし、種々の理由から、導入から8年たちましたが、ふくせき制度があまり広がっていない現状があります。
ふくせき制度を福岡市に取り入れるにあたって、すでに実践していた東京都と埼玉県に研修に行きました。東京・埼玉の場合は、毎月1回を基本としていますが、毎月地域の学校に行くのは大変なので、ビデオレターや作品交流などの形式も交えています。その子は自分たちの仲間なんだという認識を持ってもらうためのきっかけづくりを月1回行っているそうです。学習指導要領上は、交流の必要性は明記されていますが、内容や回数などは規定されていません。福岡市では、ふくせき制度の対象であるかないかに限らず、希望すれば、「居住地校」交流という形を実施しています。学期に1回ぐらいをめどにして、実施しています。

学習指導要領とは何ですか?教育の方針は国内各地で同じではないのですか?

学校で指導する内容と時間数を示したものが「教育課程」いわゆる「カリキュラム」です。これは、本来、子ども達の現状や地域の実情などを踏まえて各学校が決めるものですが、日本全国で教育水準が同じ程度になるように、ということから、国が「学習指導要領」を示しています。また、福岡市は、独自にモデルとなる「基底教育計画」を示しています。結論からいいますと、国の「学習指導要領」や福岡市の「基底教育計画」を基準として、各学校が一年間の学習をどのように進めるか、という計画を創っていく、そうご理解ください。

交流の必要性について指導要領のなかに記載してあるのですか?

現行学習指導要領:小学校版(平成20年3月告示)では、第1章「総則」の第4「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」の「2.以上のほか、次の事項に配慮するものとする」の(12)に、「~~略~~小学校間、幼稚園や保育所、中学校及び特別支援学校などとの連携や交流を図るとともに、障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習や高齢者などとの交流の機会を設けること」という文言が示されています。ページで言えば、17ページです。中学も同様です。また、3月に公表された「次期学習指導要領案」では、「他の小学校や,幼稚園,認定こども園,保育所,中学校,高等学校,特別支援学校などとの間の連携や交流を図るとともに,障害のある幼児児童生徒との交流及び共同学習の機会を設け,共に尊重し合いながら協働して生活していく態度を育むようにすること。」というように、交流及び共同学習について、明記されています。

学校での交流の実際は、うまくいっているのですか?保護者からは、学校とうまく話ができず、いろいろと大変だという話も聞きますが?

交流には、特別支援学級の児童生徒と主に同学年の学級の児童生徒との間で実施する交流と、特別支援学校と小中学校の交流、この2つの交流があります。福岡市に設置されている特別支援学級は362学級(H28)、特別支援学校の在籍児童生徒数は、1400名(H28)です。多くの学校内で、また、学校間で様々な形の交流が実施されていますから、ひとくくりで評価はできないと思っています。
私の経験で気になったケースを紹介します。障がい児の保護者が、交流を通してお互いを理解してもらいたいとの思いから、遠慮して「ここにいるだけでいいんです」とおっしゃることがあります。これは、やめましょう!。障がい児が学級にいることで、本人も周りの子どもたちもより高い教育効果が得られると思います。先ほどの新学習指導要領にも「共に尊重し合いながら協働して生活していく態度を育むようにすること。」という交流及び共同学習の目的が付加されています。どの教科で、どの場面で、相互にどのようなよい効果があるか、をきちんと考えなければいけません。保護者が学級にいるだけでいいと言った場合、その言葉通りにうけとめれば、文字どおり「教室に置いてさえいればいいんでしょ」と何もしない大変意味のない交流になる懸念があります。せっかくの交流が双方にとって、意味のあるものとなるように、先生と連携して進めていってほしいと思っています。

ふくせき制度を利用する方が少ないのはどうしてですか?

ふくせき制度を始めたときにパンフレットを作りました(保護者向けリーフレットはこちら)。特別支援学校への入学説明会の時に、ふくせき制度を紹介します。そして、まずは地域の学校の入学式へ行きましょうと案内をします。また、希望がでたら、地域の小中学校へあなたの校区にこのようなお子さんがいますよ、ふくせき制度に基づいて、入学式に参加希望があります、という情報がいきます。しかし、地域の学校の入学式へ出席したいと希望する保護者の方が少なく、ふくせき制度を利用されている人は多くありません。まわりの方に自分の子のことを伝えることに踏み切れない。声を出したりすることもあるだろうし、迷惑をかけたらと思って手がなかなか上がらないのが実態だと思います。進んで手を上げられる地域社会になっていくことが課題です。

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